みなさんこんにちは。お久しぶりです。
気が付けば2023年も1/4が終わってしまったらしいです。恐ろしく早い......
さて、そんな本日3月31日は、逢田梨香子さんのアルバムCurtain raiseの発売から3周年の日になっています。
そんなCurtain raiseには、私が愛してやまないアーティスト、やなぎなぎさんが逢田梨香子さんへ提供した曲Tieredが収録されています。
この曲はやなぎなぎさんが作詞作曲した曲の中でも特に好きな一曲となっています。
今日はそんなTieredについての話をしたいと思います。
Tieredについて
まずはこの曲がどんな立ち位置の曲なのかを説明していきます。
Tieredという楽曲は逢田梨香子さんの1stアルバムであるCurtain raiseのアルバムに収録されている11曲目の楽曲になっています。このアルバムは全部で12曲収録されているので、トリの1つ前の曲となります。
作詞、作曲ともにやなぎなぎさん。
逢田梨香子さんがやなぎなぎさんのファンで、是非なぎさんに歌詞を書いて欲しいとオファーしたことで生まれた楽曲だそうです。
なぎさんは曲を作るにあたり、梨香子さんのパーソナルな部分について話を聞きたいと話を伺い、そこで裁縫が趣味という話に目をつけて、そこから梨香子さんについて掘り進めていって生まれたのがTieredという楽曲になります。
Tieredに込められた物語
まず初めに、このTieredにはどのようなことが描かれているのか辿っていきたいと思います。
Tieredの歌詞は幼い少年が憧れのお姉さんにドレスを贈るものになっています。
歌詞は少年の視点で描かれていて、ドレスを作る過程で憧れの人への想いを募らせ、その想いを伝えるべきかどうかを思い悩む過程が愛おしく描写されているのが魅力的です。
Dメロからの劇的な展開は破裂しそうなほどに高まる憧れと理想に葛藤を抱く大サビには人の心を大きく揺さぶる魔力が秘められています。
結末がどうなったのかはぼかされていますが、これがまた良くて(なぎさん的)結末が視聴者の想像に委ねられています。その道の舗装がどちらともに当てはまるようにけれどもあからさまではないのが上手いですね。
Curtain raiseの中のTiered
Curtain raiseの文脈とTieredの役割について
さて、そんなTieredは逢田梨香子さん初めてのアルバムCurtain raiseに収録された訳ですが、このアルバム内でのTirerdはどのような立ち位置になっているのでしょうか。
Tieredは全12曲中11曲目に収録されています。その為、アルバム中でも山場の立ち位置に存在していると考えられるでしょう。
Curtain raiseでは、逢田梨香子さんのパーソナルな部分を曝け出すような曲が多く収録されています。アルバムで初収録された楽曲の中でもMirror Mirror、ME、光と雨は特にその気が強く、アルバムのテーマを支える骨組みとなっています。
そんな逢田梨香子さん自身の魅力を辿った先に待っているTieredはこれまでの曲とは違い、物語要素の強い曲となっています。
そしてそこでは逢田梨香子さんがモチーフの”憧れのお姉さん”が登場します。
この楽曲はアルバム中で提示されてきた逢田梨香子さんと演じることの関係を汲み取りながらも、それを物語に落とし込むことによって歌の中で”演じる彼女”を物語上のものとして表現することに成功しています。
これはCurtain raiseの表現してきたものの総括......むしろ発展系とすら言えるのではないでしょうか。
二つの立場のアーティスト
さて、そんなTieredですが、この曲が表現する文脈には二つの立場のアーティストが関わることで成り立っています。
二つの立場のアーティスト。それが役者と作り手です。
この内、役者の方には逢田梨香子さんが当てはまります。
では、クリエイターは誰でしょうか。ここで言う作り手は作詞・作曲を手がけているやなぎなぎさんが当てはまります。
やなぎなぎさんは歌手でありながら作曲も手がける所謂シンガーソングライターで、その中でも特に物語を歌にすることに長けている方です。
(昨年12月に発売されたやなぎなぎさん6枚目のアルバムはまさにその極地ともいうべき作品で、歌を紡ぐことで万人が楽しめる物語を作った上、制作の過程までも提供しようとし、ファンを楽しました)
Tieredはそういった作り手が作った物語を役者が演じるという構造が歌という媒体の中で成り立っています。
この距離は永遠だけど
きっと誰よりも一番に
君のこと飾ってみせるよ
↑上記の歌詞がとてもわかりやすいですね。
作り手と役者の距離感、それから作り手が役者に送るその気持ちがストレートに表現されています。
このように役者と作り手の関係性、それがこのTieredを魅力的足らしめている要素であり、ひいてはCurtain raiseの文脈をさらに昇華させる答えになっているのだと思います。
セルフカバーTiered
さて、Tieredにおける作り手と役者の関係について話たところで、やなぎなぎさんの歌うTieredについてもお話をしたいと思います。
やなぎなぎさんの歌うTieredはやなぎなぎさんの10周年記念アルバムRoundaboutの限定版に収録されていて、そこで聞くことが出来ます。
このRoundabout限定版ではやなぎなぎさんが他のアーティストに楽曲提供をした曲を自身でセルフカバーしたトラックが4曲収録されています。
Tieredはこの内の2曲目に収録されていますが、Tieredのみ、楽曲の雰囲気を大きく変化させる程のアレンジが加えられています。
では何故Tieredだけにここまで大きなアレンジが加えられているのでしょうか。
これもおそらく先程の話、つまり役者と作り手の話が関係していると考えています。
セルフカバーアレンジでは少年が憧れる優しくも気高い女性像が一転、優しい母親のような歌い方、及び曲調となっています。まるで伝達された物語に想いを馳せるような、あるいは過ぎ去った出来事を振り返っているような、そんなアレンジです。
これは(歌唱力とはまた別の問題で)やなぎなぎさんが歌えないからということではないかと考えています。
では、何故歌えないのか。
それも先ほどと同様、演者と作り手の構図が関係していると思います。
元々のTieredはやなぎなぎさんが逢田梨香子さんに提供した楽曲です。つまり、逢田梨香子さんの楽曲ということです。それはイコールで演者の曲だということになります。
そして、先ほど述べたようにやなぎなぎさんは作り手側のアーティストです。
なのでやなぎなぎさんはこの曲をそのままでは歌うのは違うと判断し、大幅なアレンジを加えたのではないでしょうか。
実際にRoundabout版のアレンジは物語を客観的に捉えていると感じるような作りとなっています。これであれば物語の語り部の立場でTieredの物語を紡いでいるので、やなぎなぎさんは作り手の立場に立ったままTieredを歌うことに成功しています。
歌詞について
次に、この曲の歌詞についての話をしましょう。
先ほども述べた通り、Tieredの歌詞は物語仕立てとなっています。
それは憧れのお姉さんにドレスを作って送る少年の物語。少年はお姉さんに対し、明確に好意を抱いているものの、それを伝えることはせず、お姉さんを一番綺麗に着飾ることで、特別な想いを思い出の中に刻み込もうとするというものです。
お姉さんは逢田梨香子さんがモチーフとなっており。歌うというものになっています。
さて、この曲なのですが、逢田梨香子さんをモチーフにした楽曲でありながらも、歌詞にはやなぎなぎさんらしい要素がたくさん詰め込まれています。
少年という視点について
この物語で目を引くものの一つとして、憧れる側の人間が少年であることが挙げられます。これはおそらく手癖のようなもので、やなぎなぎさんが歌詞の主人公を描く際、それが大人である場合は主人公は女性となりますが、それが子供であった場合、その主人公は少年と描かれることが多いことから来ていると思われます。
そう考えると、この楽曲はなぎさんの視点から逢田梨香子さんを見た歌詞とも言えるでしょう。けれどなぎさんがそのまま物語の中に登場するという訳でなく、あくまでも得意な視点から参加するに留まっているように見えます。その辺の線引きはしっかりとされているところも含めて、やなぎなぎさんのこの曲に対する思い入れが感じられていいですね。
アクアテラリウムとTiered
次はこの歌詞についてです。
ティアードに潜ませている
微かな想い
見つからなくてもいい
あの日のまま
記憶の中 鮮やかに綴じておけるなら
これはサビの歌詞になります。
ここではアクアテラリウムと同じものを感じることができます。
アクアテラリウムという曲は陸の生き物が海の生き物に恋をする話が描かれています。ですが、その想いは物理的に伝えることが出来ず、陸の生き物は海の生き物を思うだけで幸せだよねという結論に至って終わります。
ここの「好きという想いは抱えているだけで幸せ」という特有の思想はTieredのサビでも表れていると感じることができます。
また、恋をする相手との間にどうしようもない溝があるという点でもこの曲は関連しています。アクアテラリウムではそれが生活圏、Tieredは年齢差となっています。
なぎさんの歌詞で描かれる恋愛観は距離があるものが多く、断絶した中でどれだけ繋がれるのか、もしくは伝わらなかったり叶わなかったりしてもそれをどれだけ愛せるかに焦点が当てられている気がします。
ナッテ
Tieredの歌詞の節々からは「宝物」という言葉が連想されます。
実はこの「宝物」もなぎさんの歌詞のテーマの一部です。
特に、4番目のアルバム「ナッテ」はまさにその宝物をテーマにしたアルバムです。
そしてこのナッテというタイトルは綯うという言葉のもじりになっています。綯うというのは「よりを掛けて縄などを作る」という意味で、裁縫に近いものとなっています。
もしかしたら裁縫から連想したものとしてアルバム「ナッテ」の要素が採用されたのかもしれませんね。
あの子は次亜塩素酸の匂い
あの子は次亜塩素酸の匂いという曲があります。この曲にはTieredがあったからこそ生まれたのではないかという疑いを持つことが出来ます。
これはTieredが発表された直後(Curtain raise20/3/31、あの子は次亜塩素酸の匂い 20/4/9)に突如としてYoutubeにアップされた曲です。
やなぎなぎさんは突き抜けてクリエイターな方なのでスーパークリエイトタイムみたいなものがあって、本当に遊びで作られた曲がポンと上がったり、明らかに早すぎるスピードで
そして、その近くにはなぎさん自身の活動の中で大きな出会いがあることが多いです。
わかりやすいのはアクアテラリウムのCPで収録されたmnemonicという楽曲で、これは明確にアクアテラリウムを経て書かれた曲となっています。
次亜塩素酸も時間があった時にやりたかったことをやってみたと話されていますから、Tieredで膨らみすぎたものの一部が形になったものかもしれません。
少なくとも憧れの女性が出てくるという点では似たようなものを感じることが出来ます。
こちらはTieredよりはもう少しだけ勝機のある恋を楽しめるのかもしれません。土俵が近いかどうかの差ではありますが........
ライブでのTiered
Tieredは4度披露されたことがあると認識しております。
1.Curtain raiseのライブツアー
2.やなぎなぎPFCイベント
3.10th記念ライブビルボード大阪
4.10th記念ライブRoundabout vol5(逢田梨香子さんゲスト回)
この内、3を除いたものはCurtain raiseに収録されたverが基調となっています。(3はおそらくなぎさんのもの)
1.Curtain raiseのライブツアー
こちらはアルバムとは違い、10+1曲中5曲というライブの真ん中の位置での登場となっています。
このライブツアーでは、逢田梨香子さんが白と黒、2つのドレスを身につけることが印象的な公演となっていて、Tieredはその白のドレスを着る最初の曲となっています。
これはTieredの歌詞中で送るドレスが白であるからです。
また、着替え中の間に特殊イントロを流し、さらに逢田梨香子さんの映像を流すことによって、Tieredへの導入を確実なものとしていきます。
そうして満を辞して披露されたTieredは、まさに完璧の一言。完璧な"憧れの女性像"として目の前に広がるそれは、アルバム中で空想した逢田梨香子さんそのもの。
現実に見る物語と現実の融合は正に声優のライブでしか味わうことの出来ない貴重なものでした。
2.やなぎなぎPFCイベント
こちらは2021年に行われたものになります。こちらではTieredを含む4曲のセルフカバーを聞くことが出来ました。
こちらはあくまでもファンサービス的なカバーなのでアレンジは入ってないです。
そんな訳でなぎさんアレンジではないTieredを聴ける珍しいチャンスとなっています。
3.10th記念ライブビルボード大阪
こちらは聞いていないのでわかりません.......感想ください。
4. 10th記念ライブRoundabout vol5
こちらはやなぎなぎさんと逢田梨香子さんが一緒に歌った回となります。
この回で注目したいのは二人の衣装について。
逢田梨香子さんは曲をイメージした白のドレス(ライブツアーCurtain raiseとはまた別)なのに、対し、なぎさんは田舎の娘が着ているようなワンピースちっくな衣装となっていて、歌詞中でいう少年を(あるいはクリエイター側を)イメージした衣装となっています。
Tieredを歌っている間、逢田梨香子さんの姿勢が終始真っ直ぐに伸びていて、思わず「これがプロか......」と思ってしまいました。
こちらもこちらでTieredに込められた文脈に寄り添った素晴らしい演奏でした。
総括
このようにTieredはやなぎなぎさんらしい要素をふんだんに織り交ぜられられています。
しかし、それはやなぎなぎさんが歌う為のものではなく、やなぎなぎさんの属性である作り手ではなくむしろ表現者に向けての曲となっています。
逢田梨香子さんがやなぎなぎさんの大ファンだということも考慮すれば、Tieredという楽曲は作中で男の子が憧れのお姉さんへと送るドレスそのものだと言うことができ、この楽曲に込められたやなぎなぎさんらしい要素は彼女を魅力的に仕立てるTieredといってしまって差し支えないでしょう。
このTieredという楽曲は曲単体としての完成度もさることながら、収録されたアルバムの最も大事な部分に配置されるに相応しい楽曲であり、かつその要素が歌詞の中でも現実でも成り立っている、多面的に魅力溢れる楽曲であることがわかります。
また、やなぎなぎさん自身もその曲に対して真摯に向き合っていて、その思慮深さはセルフカバーから存分に読み取ることが出来るようになっています。
このように作り手が発揮する楽曲の制作に関する魅力から、演者が発揮する圧倒的なまでの世界観の出力。その受け渡しを味わうことが出来るのがこのTieredという曲となっています。
皆さんも二人の表現者が関わることで生まれたこの隠れた怪作Tieredについて深く触れてみてはいかがでしょうか。
それでは。